マイクを切り忘れて鉄道運転士が赤っ恥に、元乗務員が思うこと

「進めファイターズ~♪」運転士の鼻歌が車内に大音量で…… マイク切り忘れに東京メトロは謝罪「お客様にはご心配とご迷惑」

「進めファイターズ~♪」運転士の鼻歌が車内に大音量で...... マイク切り忘れに東京メトロは謝罪「お客様にはご心配とご迷惑」(J-CASTニュース) - Yahoo!ニュース
 東京メトロ・副都心線の電車内で、鼻歌らしき男性の声が車内アナウンスに流れたとして、声を録音した動画がXで投稿され、話題を集めている。  乗務員がマイクを切り忘れたのではないかというのが、X上の推

東京メトロの運転士がマイクを切り忘れたため鼻歌で「進めファイターズ~♪」と歌っていたことが客室に車内アナウンスされてしまい、東京メトロは「列車の運行には影響がなかったものの、ご利用のお客様にはご心配とご迷惑をおかけし誠に申し訳ございませんでした」というニュースがありました。

この記事では鉄道会社乗務員を経験したことがある私はこのニュースをみて「これは・・・仕方ない」と思いました。その理由を述べます。

鉄道会社で乗務員をすると人間の3大欲求とされる「食欲」「睡眠欲」「排泄欲」の3つとも大きく制限されます。

不規則勤務で眠い

このニュースで問題になった眠気についてです。ここでは最初に鉄道会社の乗務員の勤務体系を簡単に説明します。

鉄道会社の乗務員は会社が作った「仕業表」というものに基づいて勤務します。

仕業表には担当する電車の行程表が記載してあり、具体的には発車時刻、発車の場所(駅や車庫)、到着時刻、到着場所、種別(普通とか急行、回送など)、列車番号、編成などが記載されています。私が乗務員をしていた時は休憩時間を乗務員が手書きしてあり、その日の食事時間を把握していました。

一般的な会社であれば始業時刻や終業時刻が決まっていますが、鉄道会社の乗務員はこの仕業表に基づいて勤務するので始業時刻と終業時刻が一人ひとり違います。早ければ早朝の4時30分頃から遅ければ14時過ぎの勤務もありますので1日の勤務するリズムを作りにくく体調を崩しやすくなります。そのため、どうしても眠気を感じやすい職場環境になります。

トイレの問題

鉄道の乗務員をしていると人間の3大欲求とされる「排泄欲」ですらまともにすることはできません。

電車の定刻運転が義務付けられていますので担当中の電車でトイレに行きたくなっても基本的に行けません。腹痛に襲われれば気分は最悪です。途中駅でトイレに行くこともできますが、担当の電車が遅れるだけでなく、閉塞方式をとっていることで後続の電車も身動きが取れなくなって遅れます。単線の場合は対向の電車も遅れます。またこの先の連絡駅で接続する電車にも影響が出ます。

ただし各駅停車(普通電車)を担当していれば途中で急行などに追い抜かされる駅があるので、その途中駅で急いでトイレに行きます。

反対に急行や特急などの優等列車の担当になると各駅停車を担当するときに比べてトイレに行きにくくなるので乗務前にはトイレに行きたくなくてもトイレに行くことが多かったです。

ちなみに特急にはトイレがついている鉄道会社もあるので、車掌の場合は客室のトイレをお借りしている人もいました。

それでもどうしてもトイレに行きたくなれば、どうすればいいの?
運転指令に「腹痛のため〇〇駅でトイレにいきます」と事前に無線連絡をしてからトイレに行きます。勝手に行って電車が遅延したら事務所に帰ってから無茶苦茶怒られます。事前連絡をするとお咎めなしですが、無線を使うと他の基地局に飛ぶので休憩や勤務が終わってから同僚や先輩に少しからかわれます(笑)

食事休憩が短く早食いになる

食事休憩が短ければ実質20分ぐらいの仕業表があり、物理的に早食いをしないといけない環境で「食欲」を制限されます。一般的な企業であるなら50分~1時間は確保されていますが、鉄道会社はその点厳しいです。食事する時間帯もバラバラで昼前の11時前から遅ければ14時頃になり、お腹のリズムも整いにくいです。もっとも仕業によっては食事時間が1時間越えの仕業もあり、「良い仕業」「悪い仕業」に別れます。

ちなにみ「良い仕業」を分捕ってくる、仕事しないおじさんがいました。
食事休憩や担当列車の合間の休憩が長い「良い仕業」を、反対に食事休憩や休憩が短い「悪い仕業」に命令変更してくる仕事しないおじさんがいて、当時腹が立ったのを思い出しました(笑)恐らくどこの鉄道会社にもある洗礼と思います。

早食いをすることによって食べ過ぎたり、血糖値が急激に上がるので眠気を誘発する要因になります。早食いはゆっくり食べることに比べて消化するのに胃の負担がかかってしまいます。体に良い訳がありませんが、時間に強く縛られているため仕方ありません。

仮眠時間が短い

基本的に鉄道会社の乗務員には日勤のほかに泊り勤務があり、その中でも2つのパターンに分けられます。

・早寝早起きのパターン

22時前に勤務を終えて翌日の早朝5時前(始発を含む場合もあります)から勤務を開始する

・遅寝遅起きのパターン

24時(終電を含む場合もあります)を超えて勤務を終えて翌日7時前から勤務を開始する

2つのパターンに共通するのは睡眠時間が短いことです。当然ながら勤務終了後すぐには眠れません。風呂にも入らないと不潔ですし、夜食を食べる人もいます。

中には風呂やシャワーをせずに睡眠時間を確保する人もいましたが、共用の仮眠施設なので布団枕を共有しますので風呂やシャワーをするのはマナーです。風呂に入らないのは汚いのでやめてください。

そのほか、人身事故や運行見合わせなどのイレギュラーがあれば終業時間を繰り下げられることもあります。

また勤務が終わった解放感から気分が高揚してなかなか眠れません。実質的に眠れる時間は約4時間、仕業によっては3時間ということもあります。

このような睡眠時間で翌日勤務して眠たくないはずがありません。「睡眠欲」は確実に制限されます。

同じ行路をひたすら往復しまくる

担当路線が片道5㎞ぐらいの短い路線をひたすら往復する行程の時はとにかく眠くなります。ひたすら往復するので時間がたつのは遅く感じますし、楽しくはありません。良いことと言えばトイレの心配はなくなる点です。トイレに行きそびれても常に終点の駅がすぐそこになりますのでその点は大丈夫です。

最後に

このように3大欲求の「食欲」「睡眠欲」「排泄欲」を制限される厳しい職場環境で眠気を誤魔化すために鼻歌を歌うことは理解できます。実際私もやっていましたし、少なくとも私の会社では日常的に行われていました。ただマイクを切り忘れたことは悪いことですし、とても恥ずかしいことです。

最近では乗務員室と客室はガラスで見えるような構造になっていますが、防音性は結構しっかりしてあって普通に歌う程度では客室に声は聞こえません。ゲームをやっていた訳でもありません。正月や盆もひたすら勤務する乗務員に世間はもう少し優しくしてあげて、というのが私の感想です。

最後に鉄道会社の乗務員さんへ、毎日安全運行ならびに定時運行していただき本当にありがとうございます。

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